東京地方裁判所 昭和37年(ワ)7002号 判決 1963年11月26日
原告 株式会社 日食
右代表者代表取締役 木内勇
右訴訟代理人弁護士 浜田源治郎
被告 小林末松
右訴訟代理人弁護士 中条政好
主文
被告は原告に対し、金一九三、七二八円の支払をせよ。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第一項に限り、原告において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
但し被告において金一〇万円の担保を供するときは右の仮執行を免れることができる。
事実
≪省略≫
理由
(一) ≪証拠省略≫を綜合すると、原告は被告に対し昭和三六年一〇月六日から同年一一月二〇日までの間、別紙一覧表記載のとおり、食料品を売り渡し、その代金が合計一九三、七二八円であることが認められ、被告本人の供述中、右認定に牴触する部分は信用しない。被告は右期間の取引による代金の未払債務は一八八、六八八円である旨抗争するけれども、代金の支払についてはこれを肯認するに足りる証拠は見出し得ない。
(二) 次に原告の抗弁について判断する。≪証拠省略≫を綜合すると、被告は原告を相手方とし昭和三四年一二月二〇日付訴状をもつて、被告が昭和三二年六月二九日原告に売り渡したトンガラミルク五〇函の代金一八〇、〇〇〇円とこれに対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年六分の割合による損害金の支払を求めるため、当裁判所に訴を提起し、当裁判所昭和三四年(ワ)第一〇三八六号事件として係属し現在に至つていることが認められる。ところで被告は本件訴訟において、前記事件の訴訟物である代金及び損害金の請求権を自働債権として相殺の抗弁を提出しているが、このような抗弁が果して許されるものであろうか。若しこれを許すとすると、確定判決は、相殺に供した債権の不存在に関する判断につき既判力を生ずる結果、同一の債権が同一の範囲において二個以上の独立した判決により、一方において成立し、他方において成立しないというように相互に牴触する判断がなされる可能性があるばかりでなく、訴訟経済上も無益なことといわなければならない。このような場合に対処して設けられた民事訴訟法第二三一条は、相殺の抗弁についても、類推適用するのが相当であると解する。以上のようなわけで、被告の本件相殺の抗弁は不適法であるから、その余の点につき判断するまでもなく、採用の限りでない。
(三) よつて原告の本訴請求のうち、売買代金一九三、七二八円の支払を求める部分は正当として認容すべきものとする。また右金員に対する遅延損害金の支払を求める部分は、右代金債務の履行期に関する原告の主張事実を肯認するに足りる証拠は見出しえないから、しよせん失当として棄却を免れない。そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言並びに仮執行免脱の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎政男)